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2023/09/29 13:00


藤戸剛さんは、ブランド「FUJITO」の創業者でありデザイナー、また福岡や九州地域を代表するクリエイターです。「thought」という合同展示会や「BLEND MARKET」のディレクターも務め、多岐にわたる分野でご活躍されています。

アパレル業界が不況とされる中「FUJITO」は20年以上続いており、ここまで長くブランドを維持し、お客様から愛され続けている理由は一体何なのでしょうか。来年で創業80年を迎える内村時計店3代目である内村太郎が、100年に向けての示唆を得るため、その秘訣に迫ろうと思います。

まずは、ブランド「FUJITO」立ち上げの経緯を簡単にお聞かせいただけますか?


藤戸さん(以下、敬称略)

僕は前職でドゥニームの販売代行の会社にいました。ショップの店長だったので、モノづくりにはノータッチで、ただひたすらにお店を運営しているという状況でしたね。そこでの最後の一年くらいかな、事務所を友達とシェアオフィスのようして、仕事終わり夜な夜な集まってはシルクスクリーンTシャツなどを作って、それを友達に売ったりとかってことをやっていたんですよ。その時はFUJITOってブランド名ではなかったんですけどね。まぁまだ遊んでたってことだよね。


そんな中で勤めていたお店が閉店するってなった時に、先輩方から「藤戸くんはこの後何するの?」みたいなことを言っていただき「ちょっと決めてないですね」ってお伝えすると「いやいや、ブランドやるんでしょ〜」みたいな感じになって始まったのがきっかけですね。


内村

ブランドを立ち上げるために集まってモノづくりをしていたわけではなかったのですね?


藤戸

そうですね、僕はいわゆるデザイン学校にも行っていないので。服好きが販売員をやっていて、お店がなくなったから自分でブランドを立ち上げたってことですね。


内村

よく聞くようなデザイナー業を学ばずに始められたということですか?


藤戸

そう、いわゆる普通の大学に行って、合コンしたりして。デザインの勉強みたいなことはやっていなかったけど、販売が好きだったから、10代の頃からお客様への接客に関することは割と長いことやらせてもらっていました。むしろ、僕の周りでブランドをやっている人間は、デザイン学校卒ってあんまりいないんですよ。僕は販売員上がりの人としか戯れてないんです。(笑)


内村

販売員上がりでブランドを立ち上げるってすごいですよね。そういうことって出来るものなんですね!?


藤戸

いずれにせよブランドを立ち上げるのは難しいことだとは思うのですが、学校を出ているから近道っていうこともなくて。僕の場合は作っている洋服がカジュアルで、それを『リアルクローズ』と呼んでます。『必要たる洋服』を作っているので別に学校で勉強することってそんなにないんですよね。古着を知っているかどうかみたいなことはあると思うし、モノづくりに関してはもしかしたらそっちの方がいいのかもしれないですけど、企画して生産を工場さんやパタンナーさんと話すとかって形になると、それを学校で教えてもらえるかというと、また違うかなと思うんですよ。もちろん自分で縫うなら別ですけど。つまり、モードのブランドをやりたいんだったら、そういう道もなくはないと思うんですけどね。

内村

とても興味深いお話ですね。「リアルクローズ」というところがポイントで、モードとは違ったモノづくり側からのアプローチがそれを可能にさせているということですかね。


藤戸

そうですね。言葉にするとファンタジーを作っていないのが「リアルクローズ」ですかね。パリコレとかモードのランウェイっていうのは、非現実的なファンタジーを見たい人達のためのインフラであり、最悪着れなくてもいいとか、作品性の高いものを作っている感じですかね。


内村

「リアルクローズ」という言葉を聞いてすごく共感出来ました。僕がお客様にご提案しているヴィンテージウォッチも、まずは時計の本質に焦点を当てる必要があると思っていて、過度にヴィンテージの部分を強調してしまうと崇拝に陥ってしまう可能性があると感じています。


「FUJITO」というブランドは長い歴史を持っていますが、どのようにしてブランドの持続性を守りつつも、新しいアイデアやクリエイティビティを保ってきたのか、教えていただけますか?

藤戸

"続ける"ということを、全ての決定事項の最優先にしているということはありました。長く続けていくには、家賃がこれぐらいとか、経営規模はこれくらいで、スタッフ何名とか、割とそういうリアルなイメージをしっかりと持つことも大切かなと。


そのあたりのことは、結果として長く楽しんでもらえるお洋服につながっていると思うんですよ。例えば去年着た服と今年買った服とが合わせやすいということなど。そうすると、すべての服を一新する必要がなく、トレンドを意識せずに安心してお買い物いただける。そうした要素をデザインに取り入れることを心掛けています。


もちろん売れるに越したことはないんですよ。ホームランを打てればそれは打った方がいいんですけど、打てないんですよ。最初の3,4年はぐらいは仕事になってなかったし、6年ぐらいは飯を食えてなかったですね。


内村

それは、ホームランを狙っていたから厳しかったということなんですか?


藤戸

いや、そもそも狙っていなかったのに食えていないという悲惨な状況でしたよ。というよりも打席にも立ててなかったんじゃないですかね。(笑) 6年ぐらいはアルバイトをしながら食いつないでいました。最初に言われていた通りでアパレルはやっぱり厳しいですね。特に地方でブランドを立ちあげて、発表していくことの難しさみたいなのは今よりも強かったです。僕がブランドを始めた2002年はインターネットがちょこっと、SNSはなかったですからね。そういう意味では地方でやるメリットってほとんどなかったんですよね。今でこそ、場所を問わずにインターネットで繋がっていて、そういうものを駆使することで発表する場所はどこでも良くなったので、辞めなくて本当に良かったと思っています。

内村

つまり持続性を守りつつも新しいことをするというよりは、ひたすら守ることを意識して続けてこられたという感じですかね?


藤戸

本当にそうで、日々食べるためにやり続けていたら海から這い上がってきて両生類になっていたという感じですね。(笑)


内村

なるほど〜。精神性みたいな話は理解できたのですが、守りで同じことをやり続けていくと新たなお客様が増えず、さらに品質も良かったらなおさらのように感じたのですが、その辺りはどうなんでしょうか?


藤戸

確かにそうですよね。なぜそれで20年以上続けられているのか僕も教えて欲しいくらいです!(笑) 正確には理由は掴めていない感じですね。ただ、自分の年齢が今48歳なんですけど、2002年の28歳の頃に立ち上げてからずっと変わらないことは、その時の僕自身が着たいお洋服を素直に作り続けているということです。かけ離れた年齢の見えないところに放り込むことはせず、ブランドも一緒に年をとっている感じですね。


内村

変わっていないと思っていた守りのスタンスが、実はご自身を投影していたことでプロダクトが進化していったということが新たなお客様の獲得につながっていたのかもしれないですね。


藤戸

確かに、手法とかスキルが向上していたりとか、表現できる幅は広がっていたりとかはしていますね。今思うといい感じに枯れていっていますよ。華美でなく落ち着いた雰囲気が出ている感じがします。今、FUJITOで使っているモデルもちょうど僕と同い年の外人で、そういう姿を見ると、それなりにブランドも年をとったんだな〜と思いますね。ブランドがずっと新しくなっていかないといけないということもなくて、やっぱりリアルに自分たちが年をとっていくとか、その価値観でこういうものがちょうどいいって思えるような素直なモノづくりをしていますよ。


内村

無理をしないで、ご自身が今感じているものをリアルクロージングとして表現しているということなんですね。なんかすごくシンプルなお考えですが、それを実行するのはやはりすごいと思いました。

藤戸

そういえば別のインタビューで、「今後どうありたいですか?」という質問をされて、先のことはわからないとお答えしたんですけど、今の現状、僕の店は「定食屋」だと思っています。街にあって美味しくて毎日開いてる。どうやら地元の食材を使っているらしく、裏方では、おっちゃん達がしっかり働いているようだ。そんな地元の食材を使った定食を適正価格で出すような定食屋みたいなお洋服屋さんだと思っています。


内村

藤戸さんの例えがとても上手でびっくりします!(笑)


藤戸

これは僕の実体験から感じるイメージで、実際に僕もこういうお店に行っちゃうんですよ。洒落たカフェ行ってキメた写真とか撮らないですよね。安心するところで、いつもと同じお出汁の味噌汁が出てくるところがほっとしますね。


内村

言葉にしてしまうと新しいアイデアとか、クリエイティビティなんて言っちゃいますけど、ある意味で自分自身に嘘をつかないでブランドをやっていったら、20年前よりは変化を遂げて、気付かぬうちに持続していた感じだったんですね。


藤戸

そう思っています。さらに持続性ということでいえば、飽きないようにすることは、自分の仕事において非常に重要になっています。途中からは洋服っていうものが仕事になっていたんで、一時期、もう見るのも嫌だっていうぐらい嫌いになってしまったんですよ。やっぱり商売がうまくいかなくて、ブランドもそうだし、古着などにも興味を全くもてなくなってしまって。そんな時にどう自分自身で折り合いをつけていくかみたいな話が、結局は仕事論みたいなことだと思うんですよね。服が好きで趣味でTシャツを売り出し始めたこともありましたが、そんなの続かないですよ。売れないし、そんなに楽しくないなってなるんで、好きでもないものってやっぱり続かないんですよ。それを続けていくってなった時に飽きないようにしないと難しいなと思って、適度な距離感を持つようにしました。


その距離感を保つっていうのは、リヴェラーノさんからお声がけいただきイタリアに行かせてもらったりしたのが大きなきっかけとなりました。その時に海外から見た日本とか、海外に行って自分のブランドのことを話すとか、ましては福岡っていう地方都市に住んでいて、フィレンツェを見渡すと、俯瞰して見ることができるんですよね。その俯瞰して見る距離が遠ければ遠いほど冷静に見れるような気がしてたんです。今はそうじゃなくても俯瞰して見るという術をなんとなく得ました。海外の展示会(パリ・ニューヨーク・ロンドン)を廻って帰ってくると、結構自分たちがいい環境でお仕事が出来ていて、自分たちが何をやらなきゃいけないかもちょっと見えてきましたね。要はめっちゃ飯が美味いとか、家賃も安かったりなど、当たり前にある地元の強みを再評価し、それを自身の活動や製作に活かすことが自然な流れでモノづくりに反映されたのではないかと思っています。


内村

ありがとうございます。現実的かつ本質的なお話を聞くことができました。


ブランドの持続性に加えて、顧客様との関係性も非常に大切だと考えています。 顧客様との関係性を深めるためにどのようなアプローチを取っているのでしょうか?


藤戸

特別なことはやっていないんですけど、内村さんのところのお客様は何歳くらいの方が多いですか?


内村

元々3代目ということもあって地場のお客様はご年配の方が多くて、僕が今回のようにアパレルさんと一緒に活動していると30代〜50代くらいの方が多く、完全に2分化している感じですね。もちろん提案しているプロダクトが異なるということもあると思いますが。


藤戸

僕らがお付き合いしているお客様もその辺りなんですよね。メインの客層は30代から50代が多いんだけど、20代の子はあんまり来ない感じかな。まあ、自分たちの世代に引っ張られて来てくれてるって感じがするね。そうすると、家庭の事情も出てくるわけで、結婚して子供ができたりすると、服にかける予算やクローゼットのスペースが限られてくる。だから、新しい服を買うよりも、整理整頓や不要なものを捨てたいって人が多いわけね。長い付き合いのお客さんであれば、その人たちの洋服のことはだいたい覚えてるから、買うべきかどうかアドバイスすることもありますね。これはいいけど、これは今はちょっと違うかなとか、そういう感じで。当然だけど、リペア(修理)もおすすめしますよ。だから、新しい服を買うお客さんは減ってるけど、大事にしてるのは質だと思うね。


来てくれるお客さんたちは、商品を買いに来てるんじゃなくて、むしろおしゃべりしに来てるみたいな感じがしますね。相談があったり、ただ話を聞いてほしいってことなんじゃないかな。だから、お客様とは信頼関係とコミュニケーションが一番大事だと思っています。今って服屋に行くと買わないといけない感じっていうのもちょっとあるじゃなですか。えらいご近所からネットで注文を頂いたりするわけで、それはお店に行くということに対して、きっと何らかのしんどさがあるということだと思うんですよね。


内村

確かに昨今そういう雰囲気は感じますね。もしかしたらお店に行ったら売りつけられのではないかという不安を持つ方もいるかもしれませんね。


藤戸

だからこそ、その辺りはケースバイケースで、ECとかBLOGとかっていうのはちゃんと用意しているので、そういうツールをちゃんと使って知ってもらう必要はあるのかなと。一方でお店にはあんまりお客様が来ないとしても、だからって営業時間を減らすことは考えてないですね。逆にいつでも開いてて、お客様が来たときに迎え入れる準備を整えておかないといけないと思ってるんです。


内村

つまりそのお客様の特性に合わせて現代のツールを活用されているってことですね。インスタライブ も毎週やられていますよね ?


藤戸

やっていますね。毎週火曜日に30分程度。もう気づけばかなりの回数になります。


内村

すごいですよね!よく手段から入りすぎて、お客様が実際に求めていないことを提供してしまうことも散見されます。でも藤戸さんはお客様の意向にきちんと合わせて、分け隔てなく活用されている印象を受けました。


藤戸

こちらからこれをやりたいということは無く、お客様が欲しいと思っていただける中で、わかる範囲は全部やっている感じです。次はTik Tokですかね?(笑) なんでもいいですよ。ツールにはこだわりが全くなくて、時代に合っているフォーマットで何とか自分がパフォーマンスできるうちはやるっていう感じですね。あとは、自分達でモノづくりをしているので、お客様から直接得た情報をすぐに反映出来ることは強みだと思っています。そこを僕も大事にしていたいので、いまだに出来るだけ接客はさせてもらっています。つまり、お店っていう形をやっていますけどやっぱり僕らはメーカーなんですよね。BtoBとBtoCが同じ場所で行われているのを整理しているっていう状態ですね。仮にお店だけを成立させようとすると売らなくてはいけないというしんどさが出てしまうと思うんですが、僕らはメーカーとしての仕事も持っているのでバランスをとれるのも強みですかね。

内村

なるほど。メーカー的な役割を持つことで、お客様の購買に対する精神的なストレスを減らしているっていうこともありそうですね。


藤戸

それは一部あるかもしれませんね。あとは、この場所でプロダクトが出来上がっているというライブ感を感じたいお客様も多くいらっしゃいますね。地方のメンズメーカーでモノづくりからショップまでをやっている場所って意外と少ないので、お客様に喜んでもらえますね。


内村

確かに首都圏に比べて、そういう形態のブランドって少ないのかもしれませんね。お買い物をしにお店に行ってデザイナーさんと直接会えるってとても貴重な体験で嬉しいですよね?


藤戸

そうでもないと思いますが、そう思ってもらえたらとても嬉しいですね。(笑)


後編につづく…